みやうちふみこの詩のページ

あふれる言葉 感動 感嘆 処々 

幸せ桜

 

      幸せ桜  

                          みやうちふみこ

紅梅の咲く頃  真昼の流れ星のように 

宙に向かって 輝き始める拳のつぼみ 

新しい年に 巡ってきた季節を感じながら

 私は、川面を渡る風に吹かれて 在る

幸せ桜に会いたくなって バスに乗った。

 

その日は、コロナ感染防止のため 首都圏一都三県に 再度緊急宣言の出された日だった。 平日、午前十時台の乗客はまばらで 目に入る人は 皆マスクを付けて 密を避け 車内にも 緊迫感が漂っていた。

こんな日に どうして外出するのか?と問われたら、「ナナロク社・ 三角 みづ紀 

詩の教室」の 課題提出〆切日が迫っていても なにも浮かんでこないまま じっと

していられない気持ちと、そんな時には 「バスや電車に乗って物事を観察する 。

見た風景に 感情もふくめる」 と話していた、講師の言葉を 思い出したからだと 

応えよう。

 

駅のエレベータを使って 南口に出ると

急に 冷たい風が わたしを纏うように 通り抜けた。

また 風に向かって レンガ模様の階段を上ると

その先は 鶴見川に架かる大きな橋  私は

橋の手前から 川に沿って歩き始めて

間もなく 珍しい 風景を見た

河川敷にテントを張り 焚火しながら 側で

お母さんらしき人は 本を読み

お父さんらしき人は 子たちにボールを投げる 

家族らしい 塊

母娘で走る姿や 自転車で通り過ぎていく人

裸の木々は 寒そうに していても

じっと そこに そのまま在って

ピィッピィッ と 頭上高く飛ぶ 鳥たちも

自由で 宙は 広く広く 青い

 

堰を流れ落ちる水音が 聞こえてきて 

そこに立つと いつも 思う。 

「言葉では難しい この 水音が 好き と。」

 川面には 円を描くようにしながら

カモが数羽 光る 冬の陽を浴び

流れの余韻と 戯れていた

 

桜並木の 蕾は、まだ固くても 

その中に 毎年、早く咲く 

桜木があったと 確信して 歩いて行くと 

本当に 二輪綻んでいる 桜木に出会った

 

守られているのだろう その木には 

去年より丁寧に 

「幸せ桜」「ボーイスカウト」の札が結ばれて

 出会った頃の 幼さはなく

そこにしっかりと根を張り 

川面を吹き渡る風を一身受けても

春 早く咲くための 

支度を整えていたのだろう

 

 カメラを向けていると

「あら、咲いていますね。」

「ありがとうございました。」と

語りかけ 

行き交う人たちがいて

幸せ桜は 

そこに 在るだけで 役目を 

果たせているのだと思った

 

流れと 

戯れていたカモたちも 

ぷかぷか川面に浮かんで 頭を垂れ

揃いの トレーナーを着た3人が 話ながら

わたしを追い越し 風を置いて 走って行く

 

まだ、太陽は 真上にある 

 

帰りのバスも 程々の人

食材リストに、生かきと フリージアを加え 家路についた。

 

「お父さんと 君の桜」 は 元気だろうか 。 

忘れかけていた故郷が蘇ってくる。 しょうもない。              

 

 

宮内文子

 2021年1月24日   

2021年3月 7日推敲